DJ Doron

水戸市内の木工場を訪れると、もじゃもじゃした髪の毛の男がたばこをくわえながら出迎えてくれた。蒸し風呂のような作業場にはアジアンとも中東とも形容できるような音楽がかかる。

もう一度男に目をやると、高校球児が着てるような通気の良いシャツに安全靴姿。視線を気にしたのか、「着替えたんですよ」と一言。ほほ笑みながらドアにかけられた汚れたシャツを指さした。この男こそが、「秘密の宮廷ゴールデンタイム」で「多重空間移動装置」の異名をとるドロンだ。

DJを始めたのは高校1年のころ。水戸に来たThe Beatnutsを見て衝撃を受けたのがきっかけだった。ラッパーも脳裏に浮かんだが、文章能力がないから無理だ、との結論に。「B-BOYだったんだよ」。脇からそんな声が聞こえる。私と同年代。私が初めてHIP-HOPを聞いたのは2PACだった。そのときにはすでに射殺されていたけれども……。

職場でも自分の好きな音楽をかけまくる。上司や同僚からは時々クレームもつくが、そこはご愛敬。「J-POPもある」と意に介さない。いや、気にしているのかもしれない。繊細な部分も持ち合わせているようだ。

DJを続けているのは「自分が表現できるから」。皿と同じように卓上丸ノコも巧みに操る。仕事とDJは、何かを生み出すという点では同じ。2階部分に作り上げられた棚もどれが自分が作った物かはわかるらしい。「個性が出る」。DJと木工……人生は奥が深く、未知の世界が山ほどある。

イベントの途中でドロンするから、名前はドロン。髪型を見ればドロンより、「キューバ?」とでも声をかけたくなる。自分からはほとんどしゃべり出さないが、シャイな笑顔がなんとも言えない。ひょうひょうとした男だ。
東日本大震災の前の週の宮廷ゴールデンタイムで初登場して以来、常に時空を超えた空間を作っている。日々の木工作業に裏打ちされたプレイは必聴だ。

Writer : Everyday People
Photo : sxx

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